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第一章 第1回
第一章 第2回
第一章 第3回
第一章 第4回
第一章 第5回
第一章 第6回
第二章 第7回
第三章 第8回
第三章 第9回
第四章 第10回
第四章 第11回
第四章 第12回
第四章 第13回
第四章 第14回
第四章 第15回
第四章 第16回
第四章 第17回
第五章 第18回
第五章 第18回
第五章 第20回
第五章 第21回
第一章_教科書頻出単語 80語
第1回
◆ をかし
趣がある
① 雁(かり)などの連ねたるがいと小さく見ゆるは、いとをかし。
【訳】雁などが連なって飛んでいるのがとても小さく見えるのは、たいそう趣がある。
◆ をかし
美しく
② いとよしづきてをかしくいますかりければ、よばふ人もいとおほかりけり。
【訳】(女君は)たいそう奥ゆかしくて美しくいらっしゃったので、求婚する人もたいそう多かった。
◆ あはれなり
しみじみと情趣が深い
① 烏(からす)の 寝(ね)所(どころ)へ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり。
【訳】烏が寝所へ行くというので、三四羽、二三羽などと飛び急ぐのまでもしみじみと情趣が深い。
◆ あはれなり
しみじみと悲しい
② いとあはれなることも侍りき。去りがたき妻(め)、夫(をとこ)持ちたるものは、その思ひまさりて深きもの、必ず先立ちて死ぬ。
【訳】たいそうしみじみと悲しいこともありました。離れがたい妻や夫を持った者は、その愛情のより深い者が、必ず先立って死ぬ。
◆ おもしろし
趣がある
① 前(せん)栽(ざい)の花いろいろ咲き乱れ、おもしろき夕暮れに、
【訳】庭の植え込みの花がいろいろと咲き乱れて、趣がある夕暮れに、
◆ めでたし
すばらしく
① この世にいかでかかることありけむと、めでたくおぼゆることは、文にこそはべるなれ。
【訳】この世にどうしてこれほどのことがあったのだろうかと、すばらしく思われることは、手紙であるそうです。
◆ めでたし
立派に
② 丹(たん)波(ば)に出雲(いづも)といふ所あり。大社をうつして、めでたく造れり。
【訳】丹波に出雲という所がある。出雲大社を移して、立派に造っていた。
◆ うつくし
かわいい
① さても、いとうつくしかりつる児(ちご)かな。
【訳】それにしてもまあ、たいそうかわいい子どもだなあ。
◆ うるはし
きちんとしている
① すずろに飲ませつれば、うるはしき人もたちまちに狂人となりてをこがましく、
【訳】むやみやたらに(酒を)飲ませてしまったところ、きちんとしている人もたちまち狂人のようになって愚かで、
◆ うるはし
仲がいい
② むかし、男、いとうるはしき友ありけり。
【訳】昔、男に、とても仲がいい友がいた。
◆ うるはし
立派な
③ うるはしき皮なめり。
【訳】立派な皮であるようだ。
◆ かなし
いとしい
① 限りなくかなしと思ひて、河内へも行かずなりにけり。
【訳】(男は妻を)この上なくいとしいと思って、河内へも行かなくなってしまった。
◆ なつかし
好ましく
① 「うとうとしき隔ては残るまじくや。」となつかしうのたまひて、物語などしたまふ。
【訳】「よそよそしい分け隔ての気持ちは残るはずないわね。」と好ましくおっしゃって、世間話などなさる。
◆ すさまじ
興ざめに
① 法師のむげに能なきは、檀(だん)那(な)すさまじく思ふべし。
【訳】法師でまったく芸がない者は、施主が興ざめに思うだろう。
◆ むつかし
わずらわしく
① 世の中の腹立たしう、むつかしう、片時あるべき心地もせで、
【訳】世の中が腹立たしく、わずらわしく、片時も生きていられる心地もせず、
◆ むつかし
気味が悪い
② 右近はただあなむつかしと思ひける心地皆さめて、泣き惑ふさまいといみじ。
【訳】右近は、ただああ気味が悪いと思っていた気持ちがすっかりさめて、泣いて取り乱す様はたいそうひどい。
◆ いとほし
気の毒に
① 見るに、打(ちやう)ぜん事いとほしくおぼえけり。
【訳】(老人を)見ると、打ち叩くことが気の毒に思われた。
◆ かたはらいたし
みっともない
① ことによしともおぼえぬわが歌を、人に語りて、人の褒(ほ)めなどしたるよし言ふも、かたはらいたし。
【訳】特別よいとも思われない自分の歌を、人に語って、人が褒めたりしたことを言うのも、みっともない。
◆ かたはらいたし
きまりが悪く
② ことばにて聞こえさせむもかたはらいたくて、
【訳】(亡き恋人の弟からの誘いに)文章でお返事申し上げるのもきまりが悪くて、
◆ さうざうし
物足りない
① 雨の降る夜、帝、さうざうしとや思しめしけむ、殿上に出でさせおはしまして遊びおはしましけり。
【訳】雨の降る夜に、帝は、物足りないとお思いになられたのだろうか、殿上の間におでましになって、宴をお開きになった。
◆ おろかなり
いいかげんに
① 御文にも、おろかにもてなし思ふまじと、かへすがへすいましめ給へり。
【訳】お手紙にも、いいかげんに扱おうと思ってはならないと、何度も注意なさっていた。
第2回
◆ あさまし
驚いたことだ
① 男、物など求めて持て来て、死にて臥せりければ、いとあさましと思ひけり。
【訳】男は、物などを求めて持って帰って来て、(妻が)死んで横たわっていたので、たいそう驚いたことだと思った。
◆ あさまし
情けないことだ
② もののあはれも知らずなりゆくなむ、あさましき。
【訳】ものの情趣もわからなくなってゆくのは、情けないことだ。
◆ いたづらなり
無駄に
① 上人の感涙いたづらになりにけり。
【訳】上人の感涙は無駄になってしまった。
◆ いたづらなり
ひまで
② いたづらに暇ありげなる博士ども召し集めて、文作る。
【訳】ひまで時間の余裕がありそうな博士たちをお呼び集めになられて、漢詩を作る。
◆ はかなし
つまらない
① 世にははかなきことにつけても、かく物をかしくいふ者あるなりけり。
【訳】世間にはつまらないことであっても、このようにものをおもしろく言う者がいるものであるよ。
◆ はかなし
ちょっとした
② 夜昼御前にさぶらひて、わづかになむはかなき文なども習ひ侍りし。
【訳】夜昼、父帝におつきして、わずかにちょっとした漢籍などをも習いました。
◆ おとなし
年輩で
① おとなしく物知りぬべき顔したる神官を呼ぶ。
【訳】年輩で物事に通じていそうな神官を呼ぶ。
◆ おとなし
思慮分別がある
② おとなしく静やかなるけはひにて、ものなどいふ。
【訳】思慮分別がある静かな様子で、ものなどを言う。
◆ なかなか
かえって
① 心づきなきことあらんをりは、なかなかその由(よし)をも言ひてん。
【訳】気に入らないことがあるような時には、かえってその理由を言ってしまう方がよい。
◆ さすがに
そうはいうもののやはり
① 貧しけれど、おちぶれたるふるまひなどはせざりければ、さすがに人いやしむべきことなし。
【訳】貧しいけれど、落ちぶれた振る舞いなどはしなかったので、そうはいうもののやはり、他人が見下すようなことはない。
◆ おどろく
はっと気づか
① 秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる
【訳】秋が来たと、目にははっきりと見えないけれども、風の音ではっと気づかずにはいられなかった。
◆ おどろく
目が覚め
② 忠信敵の声に驚き起き上がり、太刀取り直し、
【訳】忠信は敵の声に目が覚め起き上がって、太刀を取り直し、
◆ ののしる
大声で騒ぎ
① もの食ひ、酒飲み、ののしりあへる。
【訳】ものを食べ、酒を飲み、大声で騒ぎあっている。
◆ ののしる
有名で
② この世にののしり給ふ光源氏、かかるついでに見奉り給はむや。
【訳】この世の中で有名でいらっしゃる光源氏を、このような機会に拝見なさいませんか。
◆ しる
治め
① 入道殿の世をしらせ給はむことを、帝、いみじう渋らせ給ひけり。
【訳】入道殿が世の中をお治めになるようなことを、帝は、たいそうためらいなさった。
◆ けしき
様子
① 「今日、風雲の気色はなはだ悪し。」と言ひて、船出ださずなりぬ。
【訳】「今日は、風や雲の様子がたいそう悪い。」と言って、船を出さなかった。
◆ なほ
やはり
① とりたててはかばかしき後(うしろ)見(み)しなければ、事とある時は、なほ拠りどころなく心細げなり。
【訳】とりたてて頼りになる後見人もいないので、何かある時には、やはり拠りどころがなく心細いようである。
◆ すなはち
すぐに
① わびしれたるものどもの、ありくかと見れば、すなはち倒れ臥しぬ。
【訳】落ちぶれて困り果てた者たちが、歩き回るかと見ると、すぐに倒れ臥してしまう。
◆ やがて
そのまま
① 薬も食はず、やがて起きもあがらで病み臥せり。
【訳】薬も飲まず、そのまま起きあがらないで病み臥せっている。
◆ やがて
すぐに
② 名を聞くより、やがて面影はおしはからるる心地す。
【訳】名前を聞くと、すぐに顔つきが想像できる気持ちがする。
◆ こころづきなし
気にくわない
① 京の者なれば、かやうの事をば興ずらむとこそ思ひけるに、少し心づきなし。
【訳】都の者であるので、このようなことを面白がるだろうと思ったのに、少し気にくわない。
◆ こころにくし
奥ゆかしい
① 姫君は心ばせ静かに(中略)け高くこころにくきさまぞし給へる。
【訳】姫君は性格が静かで、気高く奥ゆかしい様子をなさっている。
◆ こころざし
愛情
① 今の妻の志失せにければ、京に送りてけり。さて、本の妻となむ住みける。
【訳】今の妻への愛情が失せてしまったので、(実家のある)京へ送った。そうして、もとの妻と住んだということだ。
◆ こころもとなし
待ち遠しく
① 丹後へ遣はしける人は参りたりや。いかに心もとなくおぼすらむ。
【訳】丹後へ使いへやった人は参上しましたか。(あなたは)さぞ待ち遠しくお思いになっているのでしょう。
◆ こころもとなし
不安な
② こころもとなき日数重なるままに、白河の関にかかりて、旅心定まりぬ。
【訳】不安な日々が続いているうちに、白河の関にさしかかって、旅(に徹する)心が定まった。
第3回
◆ いたし
立派な
① 「いにしへの事知り給へるこそ、いたきわざなれ。」とほほゑみてのたまふ。
【訳】「昔のことをご存じでいらっしゃるのは、立派なことです。」とほほえんでおっしゃる。
◆ いたし
とても
② 那須野紙のいたう古びて、文字もむら消えして、
【訳】那須野紙のとても古びて、文字も所々消えて、
◆ いみじ
すばらしい
① 世の人、いみじき孝(けう)子(し)なりと言ひて、
【訳】世間の人は、すばらしい親孝行な人だと言って、
◆ いみじ
ひどい
② 「あないみじ。犬を蔵(くら)人(うど)二人して打ち給ふ。死ぬべし。」
【訳】「ああひどい。犬を蔵人二人でお打ちになる。死ぬでしょう。」
◆ いみじ
たいそう
③ 上(しやう)人(にん)いみじく感じて、「あなめでたや。」
【訳】上人はたいそう感心して、「ああすばらしいな。」
◆ かしこし
恐れ多い
① かしこき仰せ言をたびたびうけたまはりながら、
【訳】恐れ多いお言葉をたびたびお受けしながら、
◆ かしこし
優れた
② 帝、かしこき者に思し召して、次第に成し上げ給ひて、大臣までになされにけり。
【訳】帝は(この人を)優れた者だとお思いになって、次々に昇進させなさって、大臣にまで昇進させなさった。
◆ あぢきなし
つまらない
① すべて世にふることかひなく、あぢきなき心地いとするころなり。
【訳】まったくこの世で生き長らえる甲斐がなく、つまらない気持ちがたいそうするころである。
◆ おぼつかなし
不安な
① おぼつかなきもの。十二年の山ごもりの法師の女親。
【訳】不安なもの。十二年間山にこもっている法師の母親(の気持ち)。
◆ おぼつかなし
待ち遠しかっ
② この男、いつしか入り来て、おぼつかなかりつることなど言い臥したり。
【訳】この男は、いつの間にか(女の部屋へ)入って来て、(会うのが)待ち遠しかったことなどを言って横になった。
◆ かひなし
無駄である
① 泣き顔作り、気色異になせど、いとかひなし。
【訳】泣き顔を作って、様子もただならないようにするが、まったく無駄である。
◆ やむごとなし
貴重な
① よろづにその道を知れる者は、やむごとなきものなり。
【訳】どのようなことにおいても、その道の専門家は、貴重なものである。
◆ やむごとなし
高貴な
② やむごとなき人の隠れたまへるも、あまた聞こゆ。
【訳】高貴なお方がお亡くなりになったということも、多く伝わってくる。
◆ あてなり
身分が高い
① 世界の男(をのこ)、あてなるもいやしきも、
【訳】世間の男たちは、身分が高い男も身分が低い男も、
◆ あてなり
上品で
② 姿つき、髪のかかり給へるそば目、言ひ知らずあてにらうたげなり。
【訳】からだ全体の格好や、髪がおかかりになっている横顔は、言いようもなく上品でかわいらしい感じである。
◆ あやし
不思議だ
① 盗人あやしと思ひて、連(れん)子(じ)よりのぞきけり。
【訳】盗人は不思議だと思って、格子窓からのぞいた。
◆ あやし
粗末な
② あやしき舟どもに柴刈り積む。
【訳】粗末な舟々に柴を刈って積む。
◆ いやし
身分が低い
① 高きもいやしきも、母の子を思ふ心ざしは、父にはことなるものなめり。
【訳】身分が高い人も、身分が低い人も、母親がわが子を思いやる気持ちは、父親のそれとは異なって、格別のものであるようだ。
◆ しのぶ
じっと我慢し
① 妬(ねた)く心憂く思ふを、忍ぶるになむありける。
【訳】ねたましくつらく思っているが、じっと我慢しているのであった。
第4回
◆ しのぶ
懐しむ
② 浅(あさ)茅(ぢ)が宿に昔をしのぶこそ、色好むとは言はめ。
【訳】荒れ果てた宿で昔を懐しむのこそ、恋愛の情趣を理解していると言うのだろう。
◆ あふ
結婚し
① つひに本(ほ)意(い)のごとくあひにけり。
【訳】とうとう以前からの望みどおり結婚した。
◆ みる
結婚し
① いかでこのかぐや姫を、得てしかな、見てしかなと、音に聞き、めでて惑ふ。
【訳】なんとかしてこのかぐや姫を、自分のものにしたいものだ、結婚したいものだと、噂に聞いて、夢中で賞賛する。
◆ みゆ
嫁が
① かかる異様のもの、人に見ゆべきにあらず。
【訳】このような変わり者は、人に嫁がないほうがよい。
◆ ゆかし
知りたい
① とくゆかしきもの。人の、子産みたるに、男女、とく聞かまほし。
【訳】すぐに知りたいもの。人が、赤ん坊を産んだ時に、男か女か、はやく聞きたい。
◆ すごし
物寂しく
① 風すごく吹き出でたる夕暮れに、前(せん)栽(ざい)見給ふ。
【訳】風が物寂しく吹き出してきた夕暮れに、(紫の上は)庭先の植えこみをご覧になる。
◆ すごし
恐ろしく
② 日の入り際の、いとすごく霧りわたりたるに、車に乗るとて、うち見やりたり。
【訳】日没の際の、たいそう恐ろしく霧が立ち込めている頃に、牛車に乗る時に、(我が家のほうを)眺めてみた。
◆ つきづきし
似つかわしい
① (冬の朝の)いと寒きに、火など急ぎおこして、炭持て渡るも、いとつきづきし。
【訳】(冬の朝の)とても寒い時に、火などを急いでおこして、炭を持って行くのも、たいそう似つかわしい。
◆ たけし
勇猛な
① 目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女の仲をも和らげ、猛き武(もの)士(のふ)の心をも慰むるは、歌なり。
【訳】目に見えない鬼神をもしみじみと感動的であると思わせ、男女の仲をも親しくさせ、勇猛な武士の心をも慰めるのは、和歌である。
◆ よし
よい
① 後によき考への出で来たらんには、必ずしも師の説にたがふとて、な憚(はばか)りそ。
【訳】後でよい考えが出てきたときには、必ずしも師匠の解釈と違うからといって、遠慮するな。
◆ よし
身分が高い
② 人の、子産みたるに、男女、とく聞かまほし。よき人さらなり。
【訳】人が、赤ん坊を産んだ時に、男か女か、早く聞きたい。身分が高い人なら言うまでもない。
◆ よろし
身分の悪くない
① 我は怪しき身なれど、昔、よろしき主を、持ち奉りし。
【訳】私は身分の低い身ではあるが、昔、身分の悪くない主君を、持ち申し上げていた。
◆ よろし
普通だ
② 春毎に咲くとて、桜をよろしう思ふ人やはある。
【訳】毎年春に咲くからといって、桜を普通だと思う人がいるだろうか、いや、いない。
◆ わろし
よくない
① 母にて候ふ者の、わろき病をして死にて侍りけり。
【訳】母でございました者は、よくない病気にかかって死にました。
◆ あし
悪い
① わが子をしも、かく情けなく踏むは、いとあしきことなり。
【訳】わが子を、このように情容赦なく踏むのは、たいそう悪いことである。
◆ うし
つらい
① かくたけき家に生まれて、弓矢とるわざにかかづらひ侍るのみ、うきものに侍りける。
【訳】このような武士の家に生まれて、弓矢を取ることに関わってばかりおりますのは、つらいものでございます。
◆ わびし
つらい
① 女は、なほいと艶(えん)に恨みかくるを、わびしと思ひありき給ふ。
【訳】女は、依然としてつやっぽく恨み言を言いかけてくるので、(源氏は)つらいと思いながら月日をお過ごしになる。
◆ うしろめたし
気がかりだ
① いとはかなうものしたまふこそ、あはれにうしろめたけれ。
【訳】(若紫が)大変頼りなくていらっしゃるのが、ふびんで(行く末が)気がかりだ。
◆ かたし
難しい
① やまとうたのみち、あさきに似てふかく、やすきに似てかたし。
【訳】和歌の道は、浅いようで深く、たやすいようで難しい。
第5回
◆ ねんごろなり
一生懸命に
① 木造の地蔵を田の中の水におしひたして、ねんごろに洗ひけり。
【訳】木で作った地蔵を、田んぼの中の水に押し浸して、一生懸命に洗っていた。
◆ つれづれなり
することがなくて退屈である
① かくて講(かう)師(じ)待つほどに、我も人も久しくつれづれなり。
【訳】このようにして講師を待つ間、私も他の人も長い間することがなくて退屈である。
◆ すずろなり そぞろなり
何となく
① 左衛門の内(ない)侍(し)といふ人侍り。あやしうすずろによからず思ひけるも、え知り侍らず。
【訳】左衛門の内侍という人がおりました。不思議なことに(私に対して)何となく不快に思っていたそうだが、(私は)気づくことができませんでした。
◆ すずろなり そぞろなり
むやみやたらに
② いとかりそめに思ひたまへる気色、似るものなく心苦しく、すずろに物悲し。
【訳】たいそうはかないものとお思いになっているご様子は、他と比べようがないほど気の毒で、むやみやたらに物悲しい。
◆ すずろなり そぞろなり
思いがけない
③ 蔦(つた)・ 楓(かへで)は茂り、もの心細く、すずろなる目を見ることと思ふに、修行者会ひたり。
【訳】蔦や楓が茂り、何となく心細く、思いがけない目にあうことだと思っていると、修行者が偶然来合わせた。
◆ ぐす
つい
① もとどり切りて、やがて聖に具して法師になりて、
【訳】束ねた髪を切って、そのまま高僧について法師になって、
◆ ぐす
連れていっ
② 「我をいかにせよとて、捨てては昇り給ふぞ。具してゐておはせね。」とて泣きて伏す。
【訳】「私をどうしろというつもりで、見捨ててお昇りになるのですか。連れていってしまってください。」と言って泣き伏せる。
◆ ありく
歩き回っ
① 人にも知られ給はでありき給うける御供に、これなむ、おくれ奉らで候ひける。
【訳】(法皇が)人にも知られなさらないで歩き回っていらっしゃったお供として、この人は、あとに残り申し上げることなく、おそばでお仕えしていた。
◆ ありく
回る
② 蚊の細声にわびしげに名のりて、顔のほどに飛びありく。
【訳】蚊が細い声で心細そうな声で鳴いて、顔のあたりで飛び回る。
◆ わたる
行く
① 住む館より出でて、船に乗るべき所へ渡る。
【訳】住んでいる官舎から出て、船に乗るはずの場所へ行く。
◆ わたる
いらっしゃっ
② 帥(そち)殿(どの)の南院にて人々集めて弓あそばししに、この殿渡らせ給へり。
【訳】帥殿が南院で人々を集めて競射をなさったときに、この殿がいらっしゃった。
◆ わたる
一面に色づいている
③ 池のわたりのこずゑども、遣(やり)水(みづ)のほとりのくさむら、おのがじし色づきわたる。
【訳】池のほとりの梢や、遣り水のほとりの草むらが、それぞれ一面に色づいている。
◆ おぼゆ
感じられ
① 康頼入道も、折節あはれにおぼえて、墨(すみ)染(ぞめ)の袖をぞ濡らしける。
【訳】康頼入道も、その時しみじみと悲しく感じられて、涙で法衣の袖を濡らしたのであった。
◆ おぼゆ
思い出される
② これに、ただいまおぼえん古きこと一つづつ書け。
【訳】これに、今思い出される古歌を一つずつ書きなさい。
◆ おぼゆ
似ている
③ 尼君の見上げたるに、すこしおぼえたるところあれば、子なめりと見給ふ。
【訳】尼君が見上げている顔に、(少女が)少し似ているところがあるので、(源氏はこの少女が尼君の)子どもであるようだと御覧になる。
◆ あふ
きれない
① 「泣くよりほかの事侍らず。」とて、涙もかきあへず。
【訳】「泣く以外にございません。」と言って、涙もぬぐいきれない。
◆ あふ
とすぐに
② 大臣(おとど)聞きもあへず、はらはらとぞ泣かれける。
【訳】大臣は聞くとすぐに、はらはらとお泣きになった。
◆ あり
生きている
① 世の中にある人、ことわざ繁きものなり。
【訳】この世の中に生きている人は、関わる事柄が多いものである。
◆ ものす
書く
① 消(せう)息(そこ)などものす。
【訳】手紙などを書く。
第6回
◆ うつつ
現実
① 夢かと思ひなさんとすればうつつなり。うつつかと思へば、また夢のごとし。
【訳】夢かと思おうとすると現実である。現実かと思うと、また夢のようである。
◆ こと
特に 言葉
① 殊に若くかたちよき人の、言うるはしきは、忘れがたく思ひつかるるものなり。
【訳】特に若く容姿の優れた人で、言葉がきちんとしているのは、忘れがたく好感を持って感じられるものである。
◆ こと
他人
② わづかに聞き得たることをば、我もとより知りたることのやうに、異人にも語りしらぶるも、いとにくし。
【訳】少しばかり聞き得たことを、自分がもとから知っていたことのように、他人に語って調子に乗るのも、たいそう見苦しい。
◆ たより
手段
① 家きはめて貧しくして、世を過ごすにたよりなし。
【訳】家がたいそう貧しくて、生計を立てるのに手段がない。
◆ たより
機会
② 便りごとに、物も絶えず得させたり。
【訳】機会があるごとに、(お礼の)物も絶えず贈った。
◆ たより
配置
③ わざとならぬ庭の草も心あるさまに、簀子(すのこ)・透(すい)垣(がい)のたよりをかしく、
【訳】特に手入れをしたようでもない庭の草も趣がある様子で、簀子や透垣の配置も趣深く、
◆ よし
理由
① 月を弓張りといふは何の心ぞ。その由つかうまつれ。
【訳】月を弓張りというのはどういうわけか。その理由を歌に詠め。
◆ よし
風情
② きよげなる屋・廊などつづけて、木立いとよしあり。
【訳】こぎれいな部屋や廊下などを続けてあって、木立はたいそう風情がある。
◆ つとめて
早朝
① 九日のつとめて大湊より奈(な)半(は)の泊(とまり)をおはむとて漕ぎ出でけり。
【訳】九日の早朝に大湊から奈半の港を目指して向かおうといって舟を漕ぎ出した。
◆ つとめて
翌朝
② その夜はふけにければ、つとめてぞ、殿に参らせ給へり。
【訳】その夜は更けてしまったので、(能信殿は)翌朝に、(道長の)邸宅に参上なさった。
◆ としごろ
長年
① としごろよくくらべつる人々なむ、別れ難く思ふ。
【訳】長年よくうちとけて親しくしてきた人々であるので、別れがたく思う。
◆ としごろ
ここ数年
② さる尼の候ふが、もの食ふことも知らず、心細げにて、このとしごろ候ふなり。
【訳】ある尼がおりますが、生計を立てるすべもわからず、心細げに、ここ数年住んでおります。
◆ つきごろ
ここ数ヶ月
① つきごろに、こよなう、物の心知り、ねびまさりけり。
【訳】ここ数ヶ月で、たいそう物の情趣を理解して、大人びてきた。
◆ ひごろ
ここ数日
① 日ごろは山寺にまかり歩きてなむ。
【訳】ここ数日は山寺に参って歩きまわっていました。
◆ あまた
たくさん
① 残る田をも売りつくして金にかへ、絹あまた買ひ積みて、京に行く日をもよほしける。
【訳】残る田をも売りつくして金に換え、絹をたくさん買い集めて、京に行く日のために用意していた。
◆ おのづから
自然に
① よき人の物語するは、人あまたあれど、一人に向きて言ふを、おのづから人も聞くにこそあれ。
【訳】教養のある人が話をするのは、人がたくさんいるけれど、一人に向かって言うのを、自然に他の人も聞くのである。
◆ おのづから
偶然に
② おのづから人の上などうち言ひ、そしりたるに、幼き子どもの聞きとりて、その人のあるに言ひいでたる。
【訳】偶然に人の噂などを少し言い、悪口を言っている時に、幼い子どもが聞き取って、その(噂をしていた)人がいる前で言い出す。
◆ げに
本当に
① 人には木の端(はし)のやうに思はるるよと清少納言が書けるも、げにさることぞかし。
【訳】(法師は)人から木の切れ端のように(つまらないものだと)思われることよ、と清少納言が書いていることも、本当にもっともなことだよ。
◆ やうやう
だんだん
① やうやう秋も半ばになりゆく。
【訳】だんだん、秋も中旬になってゆく。
◆ あな
ああ なあ
① 「あな、あさまし。あの花どもはいづち往ぬるぞ。」と仰せらる。
【訳】「ああ、あきれたなあ。あの(たくさんの)花たちはどこへ行ったのか」とおっしゃる。
第二章_呼応の副詞・連語 17語
第7回
◆ おほかた・かけて さらに・すべて たえて・つゆ つやつや・よに + 打消し語
まったく~ない
① 抜かんとするに、おほかた抜かれず。
【訳】抜こうとするが、まったく抜くことができない。
◆ おほかた・かけて さらに・すべて たえて・つゆ つやつや・よに + 打消し語
少しも~ない
② つれなく知らず顔にて、かけて思ひ寄らぬさまに、
【訳】よそよそしく何食わぬ顔で、少しも心当たりがない様子で、
◆ おほかた・かけて さらに・すべて たえて・つゆ つやつや・よに + 打消し語
決して~ない
③ さらにまだ見ぬ骨のさまなり。
【訳】決して以前には見たことのない(すばらしい)骨の様子です。
◆ をさをさ + 打消し語
ほとんど~ない
① 冬枯れのけしきこそ、秋にはをさをさ劣るまじけれ。
【訳】冬枯れの景色は、秋(の景色)にはほとんど劣らないだろう。
◆ いと・いたく + 打消し語
あまり~ない
① いとやむごとなき際(きは)にはあらぬが、
【訳】あまり高貴な身分ではない方で、
◆ え + 打消し語
できない
① え答へずなり侍りつ。
【訳】答えることができなくなってしまいました。
◆ さしたる(させる)+「体言」+ 打消し語
たいした…なくて
① さしたる事なくて人のがり行くは、よからぬ事なり。
【訳】たいした事がないのに、人のもとに行くのは、よくない事である。
◆ な…そ
~してれるな
① 昔思ふ草の庵(いほり)の夜の雨に涙な添へそ山ほととぎす
【訳】昔のはなやかな生活に思いをはせ、草庵の夜の雨に涙を催しているときに、これ以上涙を加えてくれるな、山ほととぎすよ。
◆ ゆめ・ゆめゆめ+ 打消し語
決して~するな
① この山に我ありといふことを、ゆめゆめ人に語るべからず。
【訳】この山に私がいるということを、決して他人に話すな。
◆ かまへて
必ず
① かまへて参りたまへ。
【訳】必ずお越しください。
◆ いさ…(知らず)
さあ
① 人はいさ心も知らずふるさとは花ぞ昔の香(か)ににほひける
【訳】人については、さあ、心中も知らない。でも昔なじみのこの里は梅の花が昔のままの香りで咲いているよ。
◆ よも…じ(打消推量)
まさかいないだろう
① かの国の人、来なば、猛(たけ)き心つかふ人も、よもあらじ。
【訳】あの国の人が、来たならば、勇ましい心で立ち向かう人も、まさかいないだろう。
◆ いかが(その他にも「いか」が付く語は疑問詞)
どうして
① (葵の葉が)おのれと枯るるだにこそあるを、名残なく、いかが取り捨つべき。
【訳】(葵の葉が)自然と枯れるのさえ惜しいのに、あますところなく、どうして取り捨てることができようか、いや、できまい。
◆ いつしか
はやく
① いつしか梅咲かなむ、
【訳】はやく梅が咲いてほしい、
◆ いかで
どうして
① かかる道はいかでかいまする。
【訳】このような道にどうしていらっしゃるのか。
◆ いかで
なんとかして見たい
② いかで見ばやと思ひつつ、
【訳】なんとかして見たいと思い続けて、
◆ よし・たとひ…とも
たとえ~としても
① たとひ耳鼻こそ切れ失すとも、命ばかりはなどか生きざらん。
【訳】たとえ耳鼻が切れ失せるとしても、命だけはどうして助からないことがあろうか、いや、助かるだろう。
◆ あたかも・さながら…ごとし
まるで~ようだ
① そのみさを、あたかも天人の客のごとし。
【訳】その美しさは、まるで天人のようだ。
◆ はや(く・う)…けり(詠嘆)
なんとまあ
① かしこう縫ひつと思ふに、針を引き抜きつれば、はやくしりを結ばざりけり。
【訳】うまく縫ったと思うのに、針を引き抜いたところ、なんとまあ糸の端を結ばなかったことよ。
◆ すべからく…べし(当然)
当然~すべきだ
① 徳をつかんと思はば、すべからく、まづその心づかいを修行すべし。
【訳】富を身につけようと思うならば、当然、第一にその心構えを修行すべきだ。
第三章_敬語 24語
第8回
◆ たまはす
ください
① 「このありつる人たまへ。」と主に言ひければ、おこせたりけり。
【訳】「さっきいた人をください。」と主人に言ったところ、寄こしてきた。
◆ たまはす
お生まれになった
② 男皇(み)子(こ)さへ生まれたまひぬ。
【訳】皇子までもお生まれになった。
◆ おはします
いらっしゃっ
① かぐや姫は罪を作りたまへりければ、かく、いやしきおのれがもとにしばしおはしつるなり。
【訳】かぐや姫は罪をお作りになったので、このように、身分の低いお前のところにしばらくの間いらっしゃったのだ。
◆ おはします
おでかけになる
② 御供に睦ましき四(よたり)、五(いつ)人(たり)ばかりして、まだ暁におはす。
【訳】お供に親しい四、五人ほどを連れて、まだ夜が明けないうちにおでかけになる。
◆ い(み)まそかり
いらっしゃっ
① 七十余までなむいましける。
【訳】七十余歳までいらっしゃった。
◆ い(み)まそかり
いらっしゃっ
② 堀河のおほいまうちぎみと申す、いまそがりけり。
【訳】堀河の大臣と申す方が、いらっしゃった。
◆ つかはす
おやりになら
① 御子どもを同じ方に遣はさざりけり。
【訳】子供たちを同じ方面におやりにならなかった。
◆ つかはす
お与えになる
② 木草に付けても御歌を詠みてつかはす。
【訳】木や草につけたりしても歌をお詠みになってお与えになる。
◆ おぼす・おぼしめす・おもほす
お思いになります
① 「御(ご)詠(えい)の中には、いづれか優れたりとおぼす。」
【訳】「(あなたの)お詠みになった歌の中では、どれが優れているとお思いになりますか。」
◆ のたまはす
おっしゃっ
① 「影をば踏まで、面(つら)をやは踏まぬ。」とこそ仰せられけれ。
【訳】(道長は)「影を踏まないで、顔面を踏んでやる。」とおっしゃった。
◆ のたまはす
おっしゃっ
② 「和歌の船に乗り侍らむ。」とのたまひて、詠み給へるぞかし。
【訳】「和歌の船に乗りましょう。」とおっしゃって、和歌をお詠みになったよ。
◆ みそなはす
ご覧になる
① 急ぎ参らせて御覧ずるに、めづらかなる児(ちご)の御かたちなり。
【訳】(帝が)急いで参内させてご覧になると、めったにないほどの美しい皇子の御容貌である。
◆ おほとのごもる
おやすみになっ
① 御前に御覧ぜさせむとすれど、上のおはしまして大殿籠りたり。
【訳】中宮様にご覧にいれようとするが、帝がいらっしゃっておやすみになった。
◆ しろ(ら)しめす しらす
ご存じであっ
① かの御代や、歌の心を知ろしめしたりけむ。
【訳】その時の帝は、歌の本質をご存じであったのだろう。
◆ しろ(ら)しめす しらす
お治めになる
② 今すべらぎの天の下知ろしめすこと、四つの時、九のかへりになむなりぬる。
【訳】今上天皇が天下をお治めになることは、四季が九回めぐるほどになった。
◆ めす
お召しになっ
① 紫式部を召して、「何をか参らすべき。」と仰せられけり。
【訳】紫式部をお召しになって、「何を差し上げるのがよいか。」とおっしゃった。
◆ めす
召し上がる
② 己まづ酔ひて臥しなば、人はよも召さじ。
【訳】自分がまず酔って寝るならば、他の人はまさか召し上がるまい。
◆ きこしめす
お聞きになっ
① 笑ひののしるを上にも聞こしめして渡りおはしましたり。
【訳】大声で笑うのを帝もお聞きになってお渡りになった。
◆ きこしめす
召し上がり
② 御酒いく返りとなく聞こし召さる。
【訳】お酒を何度となくお召し上がりになる。
◆ まゐる
召し上がる
① 岩隠れの苔の上になみゐて、かはらけ参る。
【訳】岩陰の苔の上に並んで座って、杯(のお酒)を召し上がる。
◆ まゐる
手水で浄めなさっ
② 夜深く御手(て)水(うづ)参り、御念(ねん)誦(ず)などし給ふ。
【訳】深夜に手水で浄めなさって、お念仏をお唱えなさる。
第9回
◆ たてまつる
お召し上がりください
① 壺なる御薬奉れ。
【訳】壺にある薬をお召し上がりください。
◆ たてまつる
お乗りになる
② 御車に奉るほど、御迎への人々、君達などあまた参りたまへり。
【訳】車にお乗りになるとき、お迎えの人々や、君達などがたくさん参上なさった。
◆ あそばす
なさっ
① 帥(そち)殿(どの)の、南院にて人々集めて弓あそばししに、この殿渡らせ給へり。
【訳】帥殿が、南院で人々を集めて弓(競弓)をなさったときに、この殿がお渡りになった。
◆ そうす・けいす
申し上げ
① 「いと夜深く侍りける鳥の声は、孟嘗君のにや。」と聞こえたり。
【訳】「たいそう深夜に鳴きました(という)鳥の声は、孟嘗君のでしょうか。」と申し上げた。
◆ そうす・けいす
帝に申し上げ
② よその君たちは、便なきことをも奏してけるかなと思ふ。
【訳】他の方々は、具合の悪いことを帝に申し上げたことよと思う。
◆ そうす・けいす
申し上げ
③ 春(とう)宮(ぐう)四つにならせ給ふに譲り申させ給ふ。
【訳】春宮が四歳におなりになるときにお譲り申し上げなさる。
◆ たまはる
いただき
① 漢竹の笛の、事よろしく侍らん一つ召して賜らん。
【訳】漢竹の笛で、優れておりますものを一つお取り寄せになっていただきたい。
◆ まゐらす
差し上げ
① 「ゆかしくしたまふなるものを奉らむ。」
【訳】「欲しがっていらっしゃるらしいものを差し上げよう。」
◆ まゐらす
差し上げる
② 紫式部を召して、「何をか参らすべき。」と仰せられけり。
【訳】紫式部をお召しになって、「何を差し上げるのがよいのか。」とおっしゃった。
◆ まゐらす
申し上げ
③ ある人に誘はれ奉りて、明くるまで月見ありく。
【訳】ある人に誘われ申し上げて、夜が明けるまで月見をして回った。
◆ つかまつる つかへ(う)まつる
お仕えする
① 二条の后の、いとこの女御の御もとに、仕うまつるやうにて居たまへりけり。
【訳】二条の后は、いとこの女御のおそばに、お仕えするようなかたちでいらっしゃった。
◆ つかまつる つかへ(う)まつる
演奏して差し上げ
② 笛仕うまつりたまふ、いとおもしろし。
【訳】笛を演奏して差し上げなさるのは、たいそう趣深い。
◆ つかまつる つかへ(う)まつる
申し上げる
③ 御(み)輿(こし) に奉るを見奉るには、あけくれ御前に候ひつかうまつるともおぼえず。
【訳】御輿にお乗りになるのを拝見すると、毎日御前にお仕え申し上げるとも思われない。
◆ たまふ
ます
① 「これをなん、身にとりておもて歌と思ひ給ふる。」と言ふ。
【訳】「これ(この歌)を、自分にとっての代表歌と思います。」と言う。
◆ まうづ
参上し
① 宮に初めて参りたるころ、もののはづかしきことの数知らず。
【訳】中宮様のもとへ初めて参上したころは、何かと恥ずかしいことが多かった。
◆ まかづ
退出し
① 憶(おく)良(ら)らは今はまからむ子泣くらむ
【訳】憶良めはもう退出しよう。子供が泣いているだろう。
◆ うけたまはる
お聞きし
① 「定めてならひあることに侍らん。ちと承らばや。」
【訳】「きっといわれのあることでしょう。ちょっとお聞きしたい。」
◆ うけたまはる
お受けする
② 頭(とうの)中(ちゆう)将(じやう)、宣(せん)旨(じ)承る。
【訳】頭中将は、宣旨(帝の命令書)をお受けする。
◆ さぶ(う)らふ
お仕え
① 皇(くわう)太(たい)后(こう)宮(ぐう)の時めかせたまふ盛りにさぶらひたまひて、人より優なる者とおぼしめされたりけり。
【訳】(清少納言は)皇太后宮が寵愛をお受けになっていらっしゃった盛りにお仕えなさって、他の人より優れた者と思し召しを受けていた。
◆ さぶ(う)らふ
あるそうです
① 物語の多く候ふなる、あるかぎり見せたまへ。
【訳】物語がたくさんあるそうですので、(それを)全部見せてください。
◆ さぶ(う)らふ
更けました
② 「夜更けはべりぬ。」と聞こゆれど、なほ入りたまはず。
【訳】「夜が更けました。」と申し上げるが、まだお入りにならない。
第四章_入試最重要単語 125語
第10回
◆ おこたる
治っ
① 少将、病にいといたうわづらひて、少しおこたりて内(だい)裏(り)に参りたりけり。
【訳】少将は、病にたいそうひどくかかっていて、少し治って宮中に参上した。
◆ なやむ
病気になり
① 日ごろ、月ごろ、しるきことありて、なやみわたるが、おこたりぬるもうれし。
【訳】何日も、何か月も、はっきりと症状があって、病気になり続けていたのが、治ったのもうれしい。
◆ いたはる
骨を折っ
① 設けのものなど労りてし給へ。
【訳】もてなしのものなどを骨を折って用意してください。
◆ いたはる
養生さ
② しばらくいたはらせ候はんとて、田舎へ遣はして候ふ。
【訳】しばらくの間養生させようと思って、(馬を)田舎へやっております。
◆ うつろふ
色があせて
① 紅(くれなゐ)の色もうつろひぬばたまの黒髪変わり、
【訳】紅の顔色も色があせて、黒髪も(白く)変わり、
◆ うつろふ
散る
② 桜ははかなきものにて、かく程なくうつろひ候ふなり。
【訳】桜ははかないもので、このように間もなく散るのです。
◆ うつろふ
心変わりし
③ おのづから御心うつろひて、こよなう思しなぐさむやうなるも、あはれなるわざなりけり。
【訳】自然と(帝の)お心も(藤壺の宮に)心変わりして、この上もなく(お心が)慰められておられるようであるのも、しみじみと感慨深いことであった。
◆ にほふ
美しく照り輝い
① さし出でさせ給へる御手のはつかに見ゆるが、いみじうにほひたる薄紅梅なるは、限りなくめでたし。
【訳】(中宮様の)差し出されたお手が少し見えるのが、たいそう美しく照り輝いている薄紅梅色であるのは、この上なくすばらしい。
◆ ときめく
時にあって栄える
① 一の所などに時めく人も、えやすくはあらねど、そはよかめり。
【訳】摂関家などで時にあって栄える人も、気楽にしてはいられないが、それはよいようだ。
◆ ときめく
寵愛される
② 女御の御かたち、いとうつくしくめでたくおはしましければ、「むべ、ときめくにこそありけれ。」と御覧ず。
【訳】女御のご容貌は、たいそう美しくすばらしくいらっしゃるので、「なるほど、寵愛されるのであることよ。」とご覧になる。
◆ あそぶ
連歌をし
① 連歌は心よりおこりて、みづから学ぶべし。(中略)常に好みもてあそびて、上手にまじるべし。
【訳】連歌は心からおこり、自分自身で学ぶのがよい。常に好んで連歌をして、上手な者と交際するのがよい。
◆ なさけ
風流心
① (在原業平は)なさけある人にて、瓶に花をさせり。
【訳】(在原業平は)風流心のある人で、瓶に花をさしていた。
◆ すく
風流の道に熱心に
① よき人は、ひとへにすけるさまにも見えず、興ずるさまも等(なほ)閑(ざり)なり。
【訳】教養のある立派な人は、むやみに風流の道に熱心にしている様子にも見えず、おもしろがる様子もほどほどである。
◆ すきずきし
風流で
① 御(み)誦(ず)経(きやう)などあまたせさせ給ひて、そなたに向きてなむ念じくらし給ひける。すきずきしう、あはれなることなり。
【訳】誦経など何度もさせなさって、そちら(内裏)に向かって一日祈念していらっしゃった。風流で、趣深いことだ。
◆ かまふ
組み立て
① 西南に竹の吊り棚をかまへて、黒き皮(かは)籠(ご)三合を置けり。
【訳】(庵の)西南に竹の吊り棚を組み立てて、(それに)黒い皮ばりのつづらを三つ置いてある。
◆ かまふ
準備さ
② 「まことに馬の草なんどをもかまへさせよ。」
【訳】「本当に馬の草なども準備させよ。」
◆ したたむ
用意し
① 日暮れぬと急ぎ立ちて、御(み)灯明(あかし)のことどもしたため果てて急がす。
【訳】日が暮れてしまうとせかして、お灯明のことなど用意しおえて急がせる。
◆ いそぐ
準備
① 御はてのこといそがせ給ふ。
【訳】一周忌の仏事をご準備なさる。
◆ まうく
準備し
① 二、三月に、かく帷(かたびら)一つまうけつれば、十月まではさらに望むところなし。
【訳】二、三月に、このように帷(=単の着物)を一つ準備してしまうと、十月まではいっこうに必要ない。
◆ あきらむ
事情を明らかにし
① いにしへを考ふること、さらにひとりふたりの力もて、ことごとくあきらめつくすべくもあらず。
【訳】古代のことを研究することは、けっして一人や二人の力で、ことごとく事情を明らかにし尽くすことができるものでもない。
◆ ことわる
判断さ
① 「さることなし。もとより六つなり」と論ずるほどに、果ては、国の守のもとにして、これをことわらしむ。
【訳】(この男は)「そのようなことはない。はじめから六つだ」と言い争ううちに、最後には、国の守のもとで、これを判断させる。
第11回
◆ あきる
呆然とし
① あきれて足の踏所さへ忘れたるやうなり。
【訳】(勝四郎は)呆然として足の踏みどころまで忘れているようである。
◆ つつむ
遠慮
① 人目も今はつつみたまはず泣きたまふ。
【訳】(かぐや姫は)人目も今は(気になさらないで)遠慮なさらずにお泣きになる。
◆ こころぐるし
気の毒だ
① 思はん子を法師になしたらんこそこころぐるしけれ。
【訳】かわいがっている子供を法師にしたなら気の毒だ。
◆ はづかし
立派な
① はづかしき人の、歌の本(もと)末(すゑ)問ひたるに、ふとおぼえたる、われながらうれし。
【訳】立派な人が、歌の上の句や下の句を尋ねたときに、ふと思い出したのは、我ながらうれしい。
◆ やさし
つらい
① 世の中を憂しとやさしと思へども飛びたちかねつ鳥にしあらねば
【訳】この世の中を、情けないともつらいとも思うけれど、飛び立って逃げてしまうこともできない、私は鳥ではないので。
◆ やさし
優美だ
② 念仏のひまひまには、糸竹のすさみを思ひ捨てざりけるこそ、すきのほど、いとやさしけれ。
【訳】念仏を唱える合間には、管弦の慰みを思い捨てなかったのは、風流を好む程度が、たいそう優美だ。
◆ あたらし
惜しい
① 若くて失せにし、いといとほしくあたらしくなむ。
【訳】(宮内卿が)若くして亡くなってしまったことは、たいへん気の毒で惜しいことであるよ。
◆ くちをし
残念な
① いとわろき名の、末の世まであらむこそくちをしかなれ。
【訳】大変よくない評判が、後世まで続くのは残念なことである。
◆ うるさし
うっとうしい
① 眉さらに抜き給はず、歯黒め、「さらにうるさし、きたなし。」とて、つけ給はず。
【訳】眉毛をまったくお抜きにならず、お歯黒も、「まったくうっとうしい、見苦しい」と言って、おつけにならない。
◆ めざまし
気にくわない
① 初めよりわれはと思ひ上がりたまへる御方々、めざましきものにおとしめそねみたまふ。
【訳】(宮仕えの)当初から自分こそ(帝の寵愛を受けるのにふさわしい)と気位を高く保ちなさっている方々は、(桐壺の更衣を)気にくわない者とさげすみ妬んでいらっしゃる。
◆ ひとわろし
体裁が悪い
① 烏帽子のさまなどぞ、すこしひとわろき。
【訳】烏帽子の様子などは、少し体裁が悪い。
◆ もどかし
気に入らない
① わびしげなる車に装束わるくて物見る人、いともどかし。
【訳】みすぼらしい車に衣装も見ばえしないで催し物を見物する人は、たいへん気に入らない。
◆ かたくななり
おろかだ
① 自らもいみじと思へる気(け)色(しき)、かたくななり。
【訳】自分でも偉いと思っている様子が、おろかだ。
◆ かたくななり
風流を理解しない
② 道々の物の上手のいみじきことなど、かたくななる人の、その道知らぬは、そぞろに神のごとくに言へども、
【訳】その道々の名人がすばらしいことなどを、風流を理解しない人で、その道に通じていない人は、むやみに神様のように言うけれども、
◆ すまふ
辞退し
① もとより歌のことは知らざりければ、すまひけれど、強ひて詠ませければ、かくなむ。
【訳】もともと歌のことは知らなかったので、辞退したけれども、無理に詠ませたので、このように(詠んだ)。
◆ むすぶ
すくい上げ
① また手にむすびてぞ水も飲みける。
【訳】また(もとのように)手ですくい上げて水も飲んだ。
◆ たのむ
あてにし
① 初心の人、二つの矢を持つことなかれ。のちの矢を頼みて、初めの矢になほざりの心あり。
【訳】初心者は、二本の矢を持ってはならない。二本目の矢をあてにして、最初の矢を射るのにいいかげんな気持ちが出てしまう。
◆ たのむ
約束
② 「必ず参りこん。」と頼め聞こえ給へりけり。
【訳】「必ず参上しましょう。」と約束申し上げなさった。
◆ ながむ
物思いにふけっ
① あはれにおぼえて、ながめてぞありける。
【訳】しみじみと悲しく思われて、物思いにふけっている。
◆ ながむ
吟じ
② この歌をぞうちながめて泣きをりける。
【訳】この歌を吟じて泣きながら座っていた。
◆ まもる
見つめ
① 限りなう心を尽くし聞こゆる人に、いとよう似奉れるが、まもらるるなりけり。
【訳】この上なく思いを尽くし申し上げる人に、とてもよく似申し上げているがために、自然と見つめてしまうのだった。
第12回
◆ ありがたし
すばらしい
① 后の宮の姫宮こそ、いとようおぼえて生ひいでさせ給へりけれ。ありがたき御容貌(かたち)人(びと)になむ。
【訳】后の宮の姫君様こそ、たいそうよく似てご成長なさってきているのですよ。すばらしいご器量のお方です。
◆ めづらし
すばらしく
① 梢も庭もめづらしく青みわたりたる卯月ばかりのあけぼの、艶にをかしかりしを思し出でて、
【訳】梢も庭もすばらしく青々と一面に茂っている四月ごろの明け方の、優美で趣があったことを思い出して、
◆ おこなふ
仏道修行をする
① 持仏据ゑたてまつりて行ふ、尼なりけり。
【訳】持仏を据え申し上げて仏道修行をする(人は)、尼であった。
◆ しるし
効き目
① よろづにまじなひ、加持などまゐらせたまへど、しるしなし。
【訳】いろいろとおまじないや、加持などをおさせになるけれども、効き目がない。
◆ よ よのなか
夫婦仲
① 継(まま)母(はは)なりし人は、宮仕へせしが下りしなれば、思ひしにあらぬことどもなどありて、よのなか恨めしげにて、ほかに渡る。
【訳】継母であった人は、宮仕えをしていたのが(田舎に)下ったので、予期しなかったことがいろいろあって、(父との間の)夫婦仲がうまくいかないようで、(離婚して)よそに行く(ことになった)。
◆ ここら
たくさん
① ここらめでたき人々を据ゑ並めて御覧ずるこそはうらやましけれ。
【訳】たくさん立派な人々をそばに置いてご覧になるのはうらやましいことよ。
◆ せめて
無理に
① いみじうねぶたしと思ふに、いとしもおぼえぬ人の、おし起こして、せめてもの言ふこそ、いみじうすさまじけれ。
【訳】たいそう眠いと思っているところに、それほどにも思っていない人が、揺り起こして、無理に話しかけてくるのは、たいそう興ざめである。
◆ あるじ
もてなし
① 仕うまつる百官の人々にあるじいかめしう仕うまつる。
【訳】(竹取の翁は天皇に)お仕えする多くの役人たちへのもてなしを盛大にいたす。
◆ ちぎり
(前世からの)約束
① 昔のちぎりありけるによりなむ、この世界にはまうで来たりける。
【訳】(前世からの)約束があったので、この世界にやって参ったのだ。
◆ ちぎり
夫婦の縁
② 前(さき)の世にも御契りや深かりけむ、世になく清らなる、玉の男皇子さへ生まれたまひぬ。
【訳】前世でも夫婦の縁が深かったのでしょうか、世にまたとなく清らかで美しい、玉のような皇子まで生まれなさった。
◆ かたらふ
親しく交際する
① むかし、男、みそかにかたらふわざもせざりけり。
【訳】昔、男は、(女と)ひそかに親しく交際することもしなかった。
◆ かよふ
(恋人として)通っ
① いろにふけりたる僧ありけり。和泉式部にかよひけり。
【訳】恋愛にふけっている僧がいた。和泉式部の元に(恋人として)通っていた。
◆ かる
離れ
① あひ思はで離(か)れぬる人をとどめかねわが身は今ぞ消えはてぬめる
【訳】(恋しく思っている私のことは)思ってくれず、離れてしまった人を引き止めることができなくて、私の身は今消え果てて(死んで)しまうようです。
◆ らうたし
かわいく
① 御目の尻の少し下がり給へるが、いとどらうたくおはするを、帝、いとかしこく時めかさせ給ふ。
【訳】(女御の)お目尻が少し下がりなさっているのが、いっそうかわいくていらっしゃるのを、帝は、たいそうはなはだしく寵愛なさる。
◆ らうらうじ
手慣れて洗練されてい
① らうらうじく、ありがたかりし人の御心ばへなりかし。
【訳】(紫の上は)手慣れて洗練されていて、めったにいらっしゃらないお人柄だったのだ。
◆ きよらなり けうらなり
清らかで美しい
① この児の容貌(かたち)清らなること世になく、
【訳】この子供の姿かたちの清らかで美しいことは、たぐいまれで、
◆ あいぎやう
かわいらしさ
① 烏に指さすさま、口もとより爪先まで、愛敬こぼれて愛らし。
【訳】(さとが)烏を指さす様子は、口元から爪先まで、かわいらしさがあふれて愛らしい。
◆ いうなり
優美である
① 桜の花はいうなるに枝ざしのこはごはしく、幹(もと)の様などもにくし。
【訳】桜の花は優美であるのに枝ぶりがごつごつしていて、幹の様子なども見苦しい。
◆ えんなり
しっとりとした趣がある
① いとながき根を、文のなかに入れなどしたるを見る心地ども、艶なり。
【訳】たいそう長い(菖蒲の)根を、手紙のなかに入れたりしているのを見る心地なども、しっとりとした趣がある。
◆ なまめかし
若々しく
① かくてしもうつくしき子どもの心地して、なまめかしうをかしげなり。
【訳】このように(出家)なさっても可憐な子供のような感じがして、若々しくかわいらしい。
◆ なまめかし
優美な
② こよなう痩(や)せ細り給へれど、かくてこそ、あてになまめかしきことの限りなさもまさりてめでたかりけれ。
【訳】この上なく痩せ細っていらっしゃるけれど、このようになってかえって、上品で優美なことのこの上なさもいっそうすばらしい。
第13回
◆ おほしたつ
立派に育て上げる
① すべて男をば、女に笑はれぬ様におほしたつべしとぞ。
【訳】一般に男というものは、女に笑われないように立派に育て上げるべきであるということだ。
◆ かしづく
大切に育て
① 按(あ)察(ぜ)使(ち)の大納言の御むすめ、心にくくなべてならぬさまに、親たちかしづき給ふこと限りなし。
【訳】按察使の大納言の姫君は、おくゆかしく大方のありふれたものでない姿かたちであるため、両親が大切に育てなさることはこの上ない。
◆ およずく(およすく・およすぐ)
成長
① おのおのおよすげまさり給ふ様かたちの、美しうあらまほしきを、
【訳】(二人の姫君が)それぞれ成長なさるご容姿の、美しくて申し分ないのを、
◆ ねぶ
大人び
① 御年の程よりはるかにねびさせ給ひて、御かたちうつくしく、あたりも照りかがやくばかりなり。
【訳】(帝は)御年のほどよりは、ずっと大人びていらっしゃって、お姿が美しくご立派で、あたりも照り輝くほどである。
◆ こちたし
おおげさな
① 鶴は、いとこちたきさまなれど、鳴く声、雲(くも)居(ゐ)まで聞こゆる、いとめでたし。
【訳】鶴は、たいそうおおげさな様子であるが、鳴く声が、空まで聞こえるというのが、とてもすばらしい。
◆ いはけなし いとけ(き)なし
幼い
① 母の命尽きたるを知らずして、いとけなき子の、なほ乳を吸ひつつ、臥せるなどもありけり。
【訳】母親の命が尽きているのも知らないで、幼い子が、まだ(母の)乳を吸っては、臥しているということなどもあった。
◆ はしたなし
きまりが悪い
① げにいとあはれなりなど聞きながら、涙のつといで来ぬ、いとはしたなし。
【訳】本当にとても気の毒だなどと聞いていながら、涙がすぐに出てこないのは、とてもきまりが悪い。
◆ はしたなし
みっともない
② 「あれはたそ。あらはなり。」など、ものはしたなく言へば、さしおきて去ぬ。
【訳】「あれは誰ですか。(室内が)まる見えです。」などと、みっともないほどに言うので、(男は畳を)置いて去る。
◆ くんず
ふさぎこん
① かくのみ思ひくんじたるを、心も慰めむと心苦しがりて、母、物語など求めて見せ給ふ。
【訳】(私は)このようにばかりふさぎこんでいたが、(私の)心を慰めようと心配して、母が、物語などを探し求めて見せてくださる。
◆ あつし
病気が重く
① いとあつしくなりたまひて、そこはかとなくなやみわたりたまふこと久しくなりぬ。
【訳】とても病気が重くおなりになって、なんとなくずっとご気分がすぐれない状態でいらっしゃることが長くなってしまった。
◆ わづらふ
病気になる
① そのころおしなべて、二三日人のわづらふこと侍りしをぞ、
【訳】そのころ総じて、二・三日人が病気になることがありましたのを、
◆ わづらふ
しかね
② 呼びわづらひて、笛をいとをかしく吹きすまして、過ぎぬなり。
【訳】(男は家の中にいる女を)呼びだしかねて、笛をたいそう趣ある澄んだ音色で吹いて、行き過ぎたようである。
◆ あいなし
つまらない
① 世に語り伝ふること、まことはあいなきにや、多くはみな空言なり。
【訳】世の中で語り伝えていることは、真実のことはつまらないのであろうか、多くはみなうそである。
◆ ゆゆし
いやだ
① 「蝶は、とらふれば、わらは病せさすなり。あなゆゆし。」
【訳】「蝶は、捕まえると、おこり(病)を発症させるのです。ああいやだ。」
◆ ゆゆし
すぐれた
② 他にもらす事思ひもよらず。さりながら気(き)色(そく)ゆゆしき御僧と見(み)奉(たてまつ)れば、いなびがたくもこそ候(さうら)へ。
【訳】(薬のことは)他人に漏らすことは思いもよらない。とはいえ、ご様子からすぐれた僧侶と拝察するので、断りにくくもございます。
◆ ゆゆし
たいそう
③ 丹波に出雲といふ所あり。(中略)おのおの拝みて、ゆゆしく信おこしたり。
【訳】丹波の国に出雲という所がある。それぞれ拝んで、たいそう信心を起こした。
◆ あやなし
訳がわからない
① 春の夜のやみはあやなし梅の花色こそ見えね香やはかくるる
【訳】春の夜の闇は訳がわからない。梅の花は、色は見えないけれど、香りは隠れるか、いや隠れない。
◆ うらなし
心の隔てなく
① 同じ心ならん人としめやかに物語して、をかしきことも、世のはかなきことも、うらなく言ひ慰まんこそうれしかるべけれ。
【訳】気の合う人としんみりと話をして、おもしろいことも、世の中のはかないことも、心の隔てなく話して心を晴らすとしたら、それは非常にうれしいことだろう。
◆ つたなし
へたな
① 心・言葉の二つをともに兼ねたらんは言ふに及ばず、心の欠けたらんよりは、言葉のつたなきにこそ侍らめ。
【訳】思いやりと、言葉の二つをともに兼ねているのは言うまでもなくよいが、思いやりに欠けているよりは、言葉がへたな方がよいでしょう。
◆ つれなし
平気で
① もろともにきえをあらそふとし月をへて、あやうく心ぼそきながら、なにとしてつれなくけふまでながらふらん。
【訳】一緒に先を争って死んでいく年月を経て、かろうじて不安をいだきながらも、どのようにして平気で今日まで生きながらえているのだろう。
◆ つれなし
無関心で
② むかし、男、つれなかりける女にいひやりける。
【訳】昔、男が、(自分に対して)無関心であった女に歌を詠んで送った。
第14回
◆ くまなし
曇りがない
① 花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは。
【訳】桜の花は真っ盛りに咲いている時だけを、月は曇りがない満月だけを見るものであろうか(そうとは限らない)。
◆ ずちなし
どうしようもなく
① そのものともなき声どもの聞こゆるに、術なくて帰り給ふ。
【訳】なんとも得体の知れない声が聞こえたので、どうしようもなくて戻ってこられる。
◆ こころあり
風流心がある
① 白樫などの濡れたるやうなる葉の上にきらめきたるこそ、身にしみて、心あらん友もがなと、都恋しう覚ゆれ。
【訳】白樫などが濡れている状態の葉の上にきらめいている様子が、身にしみて、風流心があるような友がほしいものだと、(そういう友のいる)都が恋しく思われる。
◆ こころやすし
安心し
① この位去りて、ただ心やすくてあらむとなむ思ひ侍る。
【訳】この位(東宮)を下りて、ただもう安心して過ごそうと思います。
◆ めやすし
感じがよい
① すこし老いて、物の例知り、おもなきさまなるも、いとつきづきしくめやすし。
【訳】(主殿司(とのもづかさ)というものは)少し年老いて、物事の先例を知っていて、厚かましい様子なのも、たいそうその場に似つかわしく感じがよい。
◆ うしろやすし
安心
① 人となして、うしろやすからむ妻などにあづけてこそ、死にも心やすからむとは思ひしか、いかなる心地してさすらへむずらむ。
【訳】(道綱を)一人前にして、安心できるような妻などにあずけて、やっと、死ぬのも安心だろうと思ったけれど、(道綱は)どのような思いで落ちぶれて過ごすのだろうか。
◆ さるは
実は
① ねびゆかむさまゆかしき人かなと目とまりたまふ。さるは、限りなう心を尽くしきこゆる人に、いとよう似たてまつれり。
【訳】成長していく様子を見たい人だなあとご覧になる。実は、この上なく物思いを尽くし申し上げる方に、大変よく似申し上げていた。
◆ さるは
それなのに
② うち解くまじきもの。えせ者。さるは、よしと人に言はるる人よりも、うらなくぞ見ゆる。
【訳】油断できないもの。賤しい身分の者。それなのに、すばらしいと人に言われるような人よりも、心の隔てがないように思える。
◆ さればこそ さればよ
やっぱり
① 「さればこそ。異物の皮なりけり。」
【訳】「やっぱり。別のものの皮であったよ。」
◆ さるべき しかるべき
立派な
① さるべき人は、疾うより、御心魂の猛く、御守りも強きなめりとおぼえ侍るは。
【訳】立派な人は、早くから、精神が勇ましく、守護神も強いようだと思いますよ。
◆ さるべき しかるべき
そうなるはずの前世の御因縁
② 「かかる人に会ひたてまつるも、しかるべき御契りあらんものぞ。」
【訳】「このような人にお目にかかるのも、そうなるはずの前世の御因縁があるというものだ。」
◆ かこつ
嘆く
① 逢はで止みにし憂さを思ひ、あだなる契りをかこつ。
【訳】契らないで終わってしまったつらさを思い、むなしい約束を嘆く。
◆ かごと
ぐち
① かごとも聞こえつべくなむ。
【訳】ぐちも申し上げてしまいそうで。
◆ いなぶ
断り
① 人のいふほどの事、けやけくいなび難くて、よろづえ言ひはなたず、心弱くことうけしつ。
【訳】人が(口に出して)言うほどのこと(頼みごと)を、きっぱりと断りがたくて、すべて(自分の思っていることを)言いきることができなくて、気弱く承諾してしまう。
◆ ひがこと
まちがい
① いかでなほ少しひがこと見つけてをやまむ、とねたきまでにおぼしめしけるに、十巻にもなりぬ。
【訳】(『古今和歌集』の暗誦で村上天皇は)なんとかしてやはり少しでも(女御の)まちがいを見つけて(それで)やめにしよう、と憎らしいほどにお思いになるうちに、十巻にもなった。
◆ ねんず
我慢し
① しばらくこそ念じてもゐたれ、すでに十日ばかりにもなりぬれば、力なくして起き上がるべき心地せず。
【訳】しばらくは我慢してもいたが、もはや十日ほどにもなってしまったので、力尽きて起き上がれそうな気がしない。
◆ てうず
調伏する
① 験(げん)者(ざ)の、物(もの)怪(のけ)調ずとて、いみじうしたり顔に独(と)鈷(こ)や数(ず)珠(ず)など持たせ、蝉(せみ)の声しぼり出だして誦(よ)み居たり。
【訳】修験者が、物怪を調伏すると言って、たいそう得意顔で独鈷や数珠などを持たせて、蝉のような声をしぼりだして読経して座っている。
◆ ほい
志
① 花山院の、御出家の本意あり。
【訳】花山院は、御出家の志がある。
◆ ほだし
妨げ
① 世を捨てたる人の、なべてほだし多かる人を見て、むげに思ひくたすは僻事なり。
【訳】出家をした人が、総じて妨げの多い俗世の人を見て、はなはだしく軽蔑するのは誤りである。
◆ いぶせし
胸がふさがり
① 生ひ先なく、まめやかに、えせざいはひなど見てゐたらむ人は、いぶせくあなづらはしく思ひやらる。
【訳】将来性に乏しく、きまじめで、見せかけだけの幸せを夢見ているような人は、胸がふさがり、見下げたい気持ちになる。
第15回
◆ わりなし
どうしようもない
① 絵など取り出でて見せさせ給ふを、手にてもえさし出づまじう、わりなし。
【訳】(中宮様が)絵などを取り出して見せなさるが、手さえもさし出すことができそうになく、どうしようもない。
◆ わりなし
つらく
② ならはぬつれづれのわりなくおぼゆ。
【訳】慣れない退屈がつらく思われる。
◆ ところせし
場所も狭い
① 宮も起きゐたまひて、御髪の末のところせう広ごりたり。
【訳】宮もお起きになって、髪の毛の先が、場所も狭いほどに広がっている。
◆ ところせし
気づまりな
② かかるありさまもならひたまはず、ところせき御身にて、めづらしう思されけり。
【訳】こうした状態(山への外出)にも慣れていらっしゃらず、気づまりな(高い)ご身分なので、(山の気色を)めずらしくお思いになった。
◆ ところせし
おおげさだ
③ ここにありし人は、まだやながむらむ。訪ふべきを、わざとものせむもところせし。
【訳】以前ここにいた人は、今もまだもの思いに沈んでいるだろうか。訪ねたいが、わざわざ訪れるのもおおげさだ。
◆ おどろおどろし
騒々しく
① 「我は今は来じとす。」など言ひ置きて、出でにけるすなはち、(道綱は)はひ入りて、おどろおどろしう泣く。
【訳】(兼家が)「私はもう来ない」などと言い置いて、出て行ってすぐに、(道綱は私の所に)這って入ってきて、騒々しく泣く。
◆ むくつけし
気味が悪い
① いとあさましく、むくつけきことをも聞くわざかな。
【訳】あまりにひどく、気味が悪いことを聞くものだな。
◆ ものし
不愉快だ
① いとすさまじうものしと、聞こし召す。
【訳】(帝は)とてもひどく不愉快だと、お聞き遊ばす。
◆ なめし
無礼な
① 文ことばなめき人こそいとにくけれ。
【訳】文章の言葉遣いが無礼な人はたいそう気に入らない。
◆ あらまほし
理想的で
① 心ばせおほどかにあらまほしうものし給ふ。
【訳】気だてはおおらかで理想的でいらっしゃる。
◆ あらまほし
あってほしい
② 少しのことにも先達はあらまほしきことなり。
【訳】少しのことにも案内人はあってほしいものだ。
◆ おもておこし
面目をほどこすこと
① 何ごとにもはかばかしからぬみづからの面おこしになむ。
【訳】何ごとにおいてもぱっとしないわたし自身の面目をほどこすことに(なるだろう)。
◆ はかばかし
てきぱきと(はきはきと)
① はかばかしうも、のたまはせやらず。
【訳】(帝は)てきぱきと(はきはきと)、全部仰せになることができない。
◆ はかばかし
はっきりと
② 空のけしきはかばかしくも見えず。
【訳】空の様子がはっきりとも見えない。
◆ はかばかし
しっかりしている
③ 取りたてて、はかばかしき後見しなければ、事とある時は、なほ拠りどころなく心細げなり。
【訳】(桐壺の更衣には)格別にしっかりしている後ろ盾がないので、一大事があるときには、やはり頼るあてもなく心細げな様子である。
◆ あからさまなり
ほんのちょっと
① この所に住み始めし時は、あからさまと思ひしかども、今すでに五年を経たり。
【訳】この所に住み始めた時は、ほんのちょっとと思っていたが、今でもう五年が過ぎた。
◆ あながちなり
強引に
① 心にはよしと思ひながら、その中の疵(きず)をあながちに求め出でて、すべてをいひけたむとかまふる者もあり。
【訳】心の中では(その説を)よい説だと思いながら、その説の中の欠点を強引に探し出して、(それによって)その説全体を否定し去ってしまおうとたくらむ者もいる。
◆ あながちなり
むやみと
② 立ちさまよふらむ下つ方思ひやるに、あながちに丈高き心地ぞする。
【訳】(女が簾越しに)あちらこちらを歩き回っているらしい(その身体の)下の方を想像するに、むやみと背が高い感じがする。
◆ みそかなり
ひそかに
① 人にも知らせさせ給はで、みそかに花山寺におはしまして、御出家入道せさせ給へりしこそ、御年十九。
【訳】(花山天皇が)人にも知らせなさらないで、ひそかに花山寺にお出かけになって、ご出家して仏門にお入りなさったのが、御年十九歳のことでした。
◆ むげなり
ひどい
① 「いかに殿ばら、殊勝のことは御覧じとがめずや。無下なり。」
【訳】「もしもし皆さん、(この)すばらしいことは、ご覧になってお気づきになりませんか。あまりにひどい。」
◆ むげなり
ひどく
② 歌の詮(せん)とすべきふしをさはさはと言ひあらはしたれば、むげにこと浅くなりぬるなり。
【訳】歌のもっとも大切な所をはっきりそうであると言い表したので、ひどく浅い趣向になってしまったのだ。
第16回
◆ こころばへ
気だて
① 心ばへなどあてやかにうつくし。
【訳】気だてなどが優美で愛らしい。
◆ こころばせ
機転
① 心ばせある人だにも、物につまづき倒るることは、つねの事なり。
【訳】機転のきく人でさえも、物につまずいて倒れることは、あたりまえのことである。
◆ こころもちゐ
心遣い
① 門分かれぬれば、人々の御心もちゐも、また、それにしたがひてことごとになりぬ。
【訳】家門が分かれてしまうと、人々のお心遣いも、また、それに従って別々になってしまった。
◆ こころづくし
もの思いの限りをつくす
① 木の間よりもりくる月の影見れば心づくしの秋は来にけり
【訳】木の間からもれてくる月の光を見ると、もの思いの限りをつくす秋が来たことであるよ。
◆ あく
満足せ
① 飽かず、惜しと思はば、千年を過ぐすとも、一夜の夢の心地こそせめ。
【訳】満足せず、心残りであると思えば、千年を過ごしたとしても、一夜の夢のような気持ちがするだろう。
◆ あく
嫌になる
② 魚は水に飽かず。魚にあらざればその心を知らず。
【訳】魚は水が嫌になることはない。(しかし)魚でないのでその気持ちを理解できない。
◆ あく(こ)がる
さまよい歩く
① いさよふ月に、ゆくりなくあくがれんことを、女は思ひやすらふ。
【訳】沈みそうで沈まない月に(誘われて)、不用意にさまよい歩くことを、女は思いためらう。
◆ あく(こ)がる
上の空になり
② いみじう心あくがれ、せんかたなし。
【訳】たいそう上の空になり、どうしようもない。
◆ いさ(ざ)よふ
ためらっている
① 身をえうなき物になしはてて、ゆくりもなく、いざよふ月にさそはれいでなんとぞ思ひなりぬる。
【訳】自分を役に立たない者と思って、突然に、(出ようとして)ためらっている月に誘われて出ていこうと思うようになった。
◆ いさ(ざ)よふ
ぐずぐずして進まない
② もののふの八(や)十(そ)宇(う)治(ぢ)河(がは)の網(あ)代(じろ)木(き)にいさよふ波の行くへ知らずも
【訳】宇治川の網代木のあたりにただよってぐずぐずして進まない川波の行方もわからないことだ。
◆ やすらふ
たたずみ
① 御(み)佩刀(はかし)など引きつくろはせ給ひ、やすらはせ給ふ。
【訳】御佩刀の具合などをお直しなさって、たたずみなさる。
◆ おくる
先立たれ
① 故姫君は、十ばかりにて殿におくれ給ひしほど、
【訳】亡くなった姫君は、十歳ほどで父君に先立たれなさったとき、
◆ ならふ
慣れ
① 高き家の子として、つかさかうぶり心にかなひ、世の中盛りにおごりならひぬ。
【訳】高貴な家の子どもとして、官職や位階が思いのままで、世間的な栄華におごり慣れてしまった。
◆ かづく
かぶっ
① 酔ひて興に入るあまり、傍らなる足鼎を取りて、頭にかづきたり。
【訳】(仁和寺の法師は)酔って調子づいたあまり、そばにあった足のついたかなえをとって、頭にかぶった。
◆ かづく
いただき
② 大将も物かづき、忠岑も禄たまはりなどしけり。
【訳】(左大臣から)大将も引出物をいただき、忠岑も褒美をいただくなどした。
◆ かづく
かぶせる
③ 円(まど)居(ゐ)する身に散りかかるもみぢ葉は風のかづくる錦なりけり
【訳】宴をする身に散りかかる紅葉は、風がかぶせる錦であったよ。
◆ かづく
褒美として与え
④ 書きてまかで給ふに、女の装束かづけさせ給ふ。
【訳】(大弐が御障子に歌絵を)書いて退出なさるときに、(中関白殿が)女性の装束を褒美として与えなさる。
◆ しるし
はっきりしている
① いと、いたうやつれ給へれどしるき御様なり。
【訳】(源氏は)たいへん、ひどく身なりをやつしていらっしゃるけれども、はっきりしているご風采である。
◆ さかし
すぐれてい
① 国の守、眼さかしくして、この主は不実の者、この男は正直の者と見る。
【訳】国の守は、眼力がすぐれていて、この(落とし)主は不誠実で、この男は正直な者と見る。
◆ さかし
賢い
② 痴れたる者、それしもさかしうて、まことにさかしき人を教へなどすかし。
【訳】ぼけている者が、そんな状態なのに賢い振る舞って、本当に賢い人を教えなどするものだ。
第17回
◆ おほけなし
身の程をわきまえなく
① 頼朝が世尽きて、九郎が世になれとや。あはれおほけなく思ひたるものかな。
【訳】頼朝の世が終わって、九郎(義経)の世になれというのか。ああ、身の程をわきまえなく思ったものだなあ。
◆ まさなし
正しくない
① これほどに汚く濁り、まさなき心にては、いかでか本願に相応すべき。
【訳】これほどに汚く濁り、正しくない心であっては、どうして(阿弥陀仏の)本願(誓願)にかなうことができるだろうか(いや、できはしない)。
◆ あだなり
無駄に
① 絹とて人々の着るも、蚕のまだ羽根つかぬにし出だし、蝶になりぬれば、いともそでに、あだになりぬるをや。
【訳】絹といって人々が着るものも、蚕がまだ羽根もつけないうちに作り、蝶になってしまったら、たいそうおろそかにされて、無駄になってしまう(死んでしまう)のだ。
◆ あだなり
浮気な
② むかし、男ありけり。いとまめにじちようにて、あだなる心なかりけり。
【訳】昔、ある男がいた。たいそうまじめで実直で、浮気な気持ちがなかった。
◆ まめなり
まじめに
① 今は昔、高忠といひける越前守の時に、いみじく不幸なりける侍の、夜昼まめなるが、冬なれど、帷(かた)子(びら)をなん着たりける。
【訳】今となってはもう昔のことだが、高忠という越前守のときに、たいそう不幸な侍で、夜も昼もまじめに勤めていた人が、冬だというのに、帷子(=単の着物)を着ていた。
◆ まめなり
実用的な
② まめなる物は、北の方にと、夜中、暁にも運びたてまつりたまふ。
【訳】実用的なものは、北の方へと、夜中でも、暁でも関係なくお運び申し上げなさる。
◆ おぼろけなり
普通の
① 「誰ならむ。おぼろけにはあらじ。」とささめく。
【訳】「(源氏が迎えたという女は)誰であろうか。普通の(なみひととおりの人)ではあるまい。」と噂をする。
◆ おぼろけなり
普通ではない
② おぼろけの願によりてにやあらむ、風も吹かず、よき日いできて、こぎゆく。
【訳】普通ではない(なみなみならぬ)祈願によってであろうか。風も吹かず、よい日和になってきて、(舟を)漕いで行く。
◆ さらなり
言うまでもなく
① 夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。
【訳】夏は夜(がいい)。月のころは言うまでもなく、闇もまた、蛍がたくさん飛び交っている姿(がいい)。
◆ なのめなり
普通に
① 文ことばなめき人こそいとにくけれ。世をなのめに書き流したることばのにくきこそ。
【訳】文章の言葉遣いが無礼な人はたいそう気に入らない。世の中を普通に書き流す言葉はにくらしい。
◆ なのめなり
格別に
② 帝なのめにおぼしめし、その時の御恩賞に奥陸奥の国を賜る。
【訳】帝は格別にお思いになって、その時の恩賞に奥陸奥の国をお与えになる。
◆ うたて
いやに
① 篳(ひち)篥(りき)はいとかしがましく、秋の虫をいはば、くつわ虫などの心地して、うたてけぢかく聞かまほしからず。
【訳】篳篥(という楽器)はとてもうるさくて、秋の虫で言うならば、くつわ虫などのような聞き心地で、いやに思えて近くで聞きたくない。
◆ かたみに
互いに
① 水鳥、鴛(を)鴦(し)いとあはれなり。かたみにゐかはりて、羽の上の霜払ふらむほどなど。
【訳】水鳥も、鴛鴦もたいそうしみじみとした趣がある。互いに場所を変えて、羽根の上の霜を払っている様子などが。
◆ かつ(は)
一方では 一方では
① 淀みに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる例しなし。
【訳】川のよどんだ所に浮かぶ水の泡は、一方では消え、一方ではできて、長く(同じ状態に)とどまっているという例はない。
◆ なべて
一面に
① 田子の浦にうちいでて、富士のたかねを見れば、時わかぬ雪なれども、なべていまだ白妙にはあらず。
【訳】田子の浦に出て、富士山の髙い嶺を見ると、時節を知らない雪ではあるが、一面にまだまっ白ではない。
◆ なべて
普通
② すべて、なべての人の願ふ心に違へるをみやびとするは、作りごとぞ多かりける。
【訳】総じて、普通の人が願う心に違っているのを風流心とするのは、うそごとが多いものだよ。
◆ きは
身分
① いとやむごとなききはにはあらぬが、すぐれてときめき給ふありけり。
【訳】それほど尊い身分ではないが、きわだって(帝の)寵愛をお受けになっている人がいた。
◆ きは
端
② おのおの下りて、埒の際に寄りたり。
【訳】それぞれ(馬から)下りて、埒(=馬場の囲いの柵)の端に集まった。
◆ ざえ
学問
① かたはらいたきもの。(中略)才ある人の前にて、才なき人の、ものおぼえ声に、人の名など言ひたる。
【訳】そばにいていたたまれないもの。学問のある人の前で、学問のない人が、知ったような口ぶりで、(有名な)人の名前などを言っているとき。
第五章_入試重要語 58語
第18回
◆ とふ
尋ねる
① 「たれたれか」と問へば、「それそれ」と言ふ。
【訳】(私が)「どなた様たちがいらっしゃるのですか」と尋ねると、(主殿(とのも)司(づかさ)が)「あの方とあの方です」と答える。
◆ とふ
訪ねる
② なほ頼め梅の立ち枝は契りおかぬ思ひのほかの人もとふなり
【訳】やはりあてにしていらっしゃい。梅の高く伸びた枝(を見て)は、約束もしていないような思いがけない人までも、訪ねるということです。
◆ おとなふ
訪問し
① 父親王おはしけるをりにだに、古りにたるあたりとておとなひきこゆる人もなかりけり。
【訳】父宮が生きていらっしゃった時分でさえ、古くさくなってしまった所だというので、(このお屋敷へ)訪問し申し上げる人もなかった。
◆ いらふ
答え
① 「この鹿のなくは聞きたうぶや」といひければ、「さ聞き侍り」といらへけり。
【訳】(男が)「この鹿の鳴くのはお聞きになりましたか」と言ったので、(女は)「それは聞こえました」と答えた。
◆ なづむ
こだわり
① 師の説なりとて、必ずなづみ守るべきにもあらず。
【訳】師の学説であるからといって、必ずしもこだわり守らなければならないというものでもない。
◆ なづさふ
親しんで
① 常に参らまほしく、なづさひ見たてまつらばや、とおぼえたまふ。
【訳】(光源氏は)いつも(藤壺のそばに)参りたい、親しんで(お姿を)見申し上げたい、とお思いになる。
◆ こぼ(ほ)る こぼ(ほ)つ
壊れ
① 聞きしよりもまして、いふかひなくぞこぼれ破れたる。
【訳】(噂で)聞いていた以上に、なんとも言い難いほどに壊れて(傷んで)いる。
◆ こぼ(ほ)る こぼ(ほ)つ
壊し
② 頼むかたなき人は、自らが家をこぼちて、市に出でて売る。
【訳】あてのない人々は、自分の家を壊して(薪にして)、市に出て売る。
◆ おづ
怖がり
① 一寸法師は、鬼に飲まれては、目よりいでて飛びありきければ、鬼もおぢをののきて、
【訳】一寸法師は、鬼に飲まれると、(鬼の)目から出て飛び回ったので、鬼も怖がり震えて、
◆ あざる
ふざけ
① 上(かみ)中(なか)下(しも)、酔(ゑ)ひ飽きて、いとあやしく、潮海のほとりにてあざれあへり。
【訳】身分の上下を問わず、すべての人がすっかり酔っぱらって、とても不思議なことに、海のほとりでふざけ合っている。
◆ まどふ
途方に暮れ
① 酒宴ことさめて、いかがはせむと惑ひけり。
【訳】酒宴の興がさめて、どうしたらよいかと途方に暮れた。
◆ まどふ
ひどく
② 若き人々は怖ぢまどひけり。
【訳】若い女房たちはひどく怖がった。
◆ もだす
黙っ
① 光(くわう) 勝(しよう)聖、法(ほふ)蓮(れん)聖を勧めわづらひて、もだしてやみぬ。
【訳】光勝聖は、法蓮聖をその気にさせかねて、黙って終わってしまった。
◆ よそふ
例え
① 人も、今見る人のなかに思ひよそへらるるは、誰もかくおぼゆるにや。
【訳】(物語に出てくる)人も、現に見る人に自然と思い例えられるのは、(私だけでなく)誰でもこのように感じられるものだろうか。
◆ ゐざる
膝行し
① ゐざり帰るにや遅きと上げちらしたるに、雪降りにけり。
【訳】(わたしが中宮様の前から)膝行して(自分の局に)帰るやいなや(格子を)開け放したところ、雪が降ってしまっていたのだよ。
◆ すさぶ
心のおもむくままに
① 亡き人の、手習ひ、絵描きすさびたる、見出でたるこそ、ただその折の心地すれ。
【訳】亡くなった人が、心のおもむくままに文字を書いたり、絵を描いたりしたものを、見つけた場合には、まるでその当時に立ち戻ったような気持ちがする。
◆ やる
言いきることができない
① 鼻たびたびかみて、えもいひやらず。
【訳】鼻をたびたびかんで、言いきることができない。
◆ いさむ
忠告する
① あまりにいたくいさむれば、童は気を失ひて、能、ものくさくなりたちぬれば、やがて能は止まるなり。
【訳】あまりにひどく(良し悪しを)忠告すると、子供はやる気を失って、能が、すっかり億劫になってしまうので、そのまま能の上達は止まるのだ。
◆ おきつ
決め
① 修法など、またまた始むべきことなど掟てのたまはす。
【訳】修法(祈祷)など、再び始めるのがよいことなどを決めてお言いつけになる。
◆ おきつ
命令し
② 高名の木登りといひし男、人を掟てて、高き木に登せて梢を切らす。
【訳】木登りの名人と(世間の人が)言っていた男が、人に命令して、高い木に登らせて梢を切らす。
◆ かどかどし
機転がきいてい
① そこはかとなく気色ばめるは、うち見るにかどかどしく気色だちたり。
【訳】(筆遣いなども)どことなく気どって書いてあるのは、ちょっと見ると機転がきいていて改まった感じである。
第19回
◆ けし
異様な
① この大刀を取り、異(け)しき物と思ほして、天(あま)照(てらす)大(おほ)御(み)神(かみ)に申しあげたまひき。
【訳】この大刀を取って、異様な物だとお思いになって、天照大御神に申して献上なさった。
◆ けやけし
はっきりと
① 人のいふほどの事、けやけくいなび難くて、よろづえ言ひはなたず、心弱くことうけしつ。
【訳】人が(口に出して)言うほどのこと(頼みごと)を、はっきりと断りがたくて、すべて(自分の思っていることを)言いきることができなくて、気弱く承諾してしまう。
◆ こちごちし
無風流だ
① さしくみに、古物語にかかづらひて夜を明かしはてんも、こちごちしかるべし。
【訳】だしぬけに、昔の思い出話に関わりあって夜を明かしてしまうのも、無風流だろう。
◆ ねたし
しゃくにさわり
① かく辛き目にあひたらん人、ねたく、口惜しと思はざらんや。
【訳】このようなつらい目にあっているような人は、しゃくにさわり、残念だと思わないだろうか。
◆ らうがはし
乱雑な
① 無礼をもえはばからず、かくらうがはしき方に案内まうしつるなり。
【訳】失礼をも顧みることができず、このように乱雑なところへご案内申し上げたのです。
◆ かしまし・かまし・かしかまし・かまびすし
やかましく
① この猫を北おもてにのみあらせてよばねば、かしかましくなきののしる。
【訳】この猫を北側の部屋にばかりいさせて呼ばないので、やかましく鳴き騒いでいる。
◆ いぎたなし
寝坊だな
① わがもとにある者、起こしに寄り来て、いぎたなしと思ひ顔にひきゆるがしたる、いとにくし。
【訳】(会いたくない人が来たので狸寝入りをしていたら)自分の元にいる召使いが、起こしに寄って来て、寝坊だなと思っているような顔で引っ張りゆすぶったのは、まことに憎らしい。
◆ えうなし
必要がない
① その男、身をえうなきものに思ひなして、「京にはあらじ。東の方に住むべき国求めに。」とて行きけり。
【訳】その男は、(自分の)身を必要がないものと思いこんで、「もう都にはいまい。東国の方に安住の地を探しに行こう。」というわけで、旅立って行った。
◆ さうなし
比べるものがない
① 悲田院の尭(げう)蓮(れん)上(しやう)人(にん)は、俗姓は三浦のなにがしとかや、双なき武者なり。
【訳】悲田院の尭蓮上人は、在俗のときの姓を三浦のだれそれとかいって、比べるものがない武士である。
◆ さうなし
言うまでもない
② 今は左右なし。これへ参るべきなり。
【訳】今は言うまでもない。ここへ来るがよい。
◆ ものぐるほし
気が変になりそうだ
① そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。
【訳】とりとめもなく書きつけていると、不思議にも気が変になりそうだ。
◆ ゆくりなし
思いがけなく
① かくいひてながめつつ来るあひだに、ゆくりなく風吹きて、(中略)ほとほとしくうちはめつべし。
【訳】このように歌を詠んで、もの思いにふけりながら景色をながめながめしてやって来るうちに、思いがけなく風が吹いて、あぶなく風が舟を沈めてしまいそうである。
◆ をこなり
愚かだ
① このことの心知れる人、女房の中にもあらむかし。知らぬこそ妬けれ。をこなりと見るらむ。
【訳】このことの事情を知っている人は、女房の中にもいることであろうよ。(私が)知らないというのは悔しい。(女房たちは私のことを)愚かだと思っているのだろう。
◆ さがなし
意地悪で
① 北の方さいなみだちにたり。さがなくぞおはすべき。
【訳】北の方が(あなたを)いじめてしまっている。意地悪でいらっしゃるのだろう。
◆ さがなし
いたずらな
② さがなきわらはべどもの仕りける、奇怪に候ふことなり。
【訳】(そのことは)いたずらな子供たちがいたしましたことで、けしからぬことでございます。
◆ まほなり
整っていて
① 山の端の光やうやう見ゆるに、女君の御容貌のまほにうつくしげなり。
【訳】山の端の光が次第に見えてくると、女君のお顔立ちが整っていてかわいらしい様子である。
◆ とみなり
急には
① 殿に帰り給ひて、とみにもまどろまれ給はず。
【訳】おやしきにお帰りになって、急にはお眠りにもなれない。
◆ はつかなり
ほんの少し
① さし出でさせ給へる御手のはつかに見ゆるが、いみじう匂ひたる薄紅梅なるは、限りなくめでたし。
【訳】(中宮が)差し出しなさっているお手がほんの少し見えるのが、たいそう照り輝く薄紅梅色であるのは、この上もなくすばらしい。
◆ うべなり・むべなり
もっともだ
① 天(あま)照(てらす)大(おほみ)神(かみ)ののたまはく、「うべなり。」
【訳】天照大神がおっしゃることには、「もっともだ。」
◆ うべなり・むべなり
なるほど
② 吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風をあらしといふらむ
【訳】一度吹くとたちまち秋の草木がしおれるから、なるほど山から吹き下ろす風を「嵐(荒らし)」と言うのだろう。
◆ やを(は)ら
そっと
① やをら隠れぬるけはひども、衣の音もせず、いとなよらかに心苦し。
【訳】(姫君たちが)そっと隠れてしまった様子などは、(着古して糊の落ちたものを着ているので)衣擦れの音もしないで、とても弱々しく気の毒だ。
第20回
◆ おのがじし
めいめいに
① おのがじしうち語らひ嘆かしげなるを、つゆも見知らぬやうに、いとけはひをかしく物語などし給ひつつ、夜ふくるまでおはす。
【訳】(女房たちが)めいめいに話し合って嘆いている様子なのを、(紫の上は)少しも気づかないように、まことに感じも優雅にお話などをなさって、夜が更けるまでいらっしゃる。
◆ ふりはへて
わざわざ
① くす師ふりはへて、屠(とう)蘇(そ)・白(びやく)散(さん)酒加へてもて来たり。
【訳】医師がわざわざ、屠蘇・白散(正月用の薬酒)に酒を添えて持ってきた。
◆ かつがつ
どうにかして
① かつがつ南都の狼(らう)藉(ぜき)をしづめん。
【訳】どうにかして興福寺の僧たちの乱暴な行いをしずめよう。
◆ はた
また
① 雁などの連ねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。日入り果てて、風の音虫の音など、はたいふべきにあらず。
【訳】雁などが連なって飛んでいるのがとても小さく見えるのは、たいそう趣がある。夕日が沈んでしまったあと、風の音や虫の声などがするのも、またいうまでもない。
◆ いとど
ますます
① 散ればこそいとど桜はめでたけれうき世になにか久しかるべき
【訳】散るからこそ、ますます桜はすばらしいのだ。つらいこの世の中で何が久しくとどまっているだろうか、いや、そんなものは一つもない。
◆ など
どうして
① などいらへもし給はぬ。はかなきこと聞こゆるも、心づきなげにこそおぼしたれ。
【訳】どうして返事もなさらないのか。つまらないことを申し上げたので、不愉快にお思いになったのですね。
◆ なでふ
どうして
① なでふ女か真名書は読む。昔は経読むをだに人は制しき。
【訳】どうして女が漢字の本などを読むことがあろうか、いや、読むものではない。昔は女が経を読むのでさえ、人は止めたものだというのに。
◆ あらまし
計画
① かねてのあらまし、皆違ひゆくか。
【訳】かねてからの計画は、すべて外れてしまうのか。
◆ しな
身分
① 品のほどこそ、一条殿とひとしからねど、身の才・人覚え、やむごとなき人なりけれ。
【訳】(ある殿上人は)身分こそ一条殿と同じではなかったが、技能や世間の評判では、捨て置けない人であった。
◆ よすが
縁者
① はかばかしきよすがなどもなかりけるにや、乳母(めのと)の子なりける者に具して、遥かなる田舎にまかりて住みけり。
【訳】しっかりした縁者などもなかったのであろうか、乳母の子であった者について、遥か遠い田舎に下って行って住んだ。
◆ よすが
手段
② 飢をたすけ、嵐を防ぐよすがなくては、あられぬわざなれば、
【訳】餓えを凌いで、嵐を防ぐ手段がなければ、生きていくことができないことなので、
◆ たづき
手段
① 学問して因果の理をも知り、説教などして世渡るたづきともせよ。
【訳】学問をして因果応報の道理をも知り、説教などをして生活の手段ともせよ。
◆ あない
訪問して取り次ぎを頼ま
① おぼし出づる所ありて、案内せさせて入りたまひぬ。
【訳】(そのお方は)ふとお思い出しになった家があって、(お供の者に)訪問して取り次ぎを頼ませてお入りになってしまった。
◆ おこたり
過失
① 久しく訪れぬ頃、いかばかり恨むらむと、我が怠り思ひ知られて、言葉なき心地す。
【訳】長い間(女の元を)訪れなかったころに、どれほど怒っているだろうかと、自分の過失が思い知られて、言葉も見つけられない気持ちがする。
◆ おこたり
謝罪
② われ悪しく心得たりけるぞと、怠り申しにまうでたるなり。
【訳】私の方が間違って理解していたのだなあと、謝罪を申し上げに参上したのです。
◆ さた
評定
① 九条殿、右大将にておはしける頃、讃岐(さぬき)の三位の聟(むこ)にとり奉りて、あつかひ聞こえけるに、常に和歌の沙汰ありけり。
【訳】(関白忠通の子)九条殿兼実が、右大将でいらっしゃったころ、従三位讃岐守季行が娘の婿として迎え奉って、お世話申し上げていたが、(そこで)よく和歌の評定があった。
◆ さた
処置
② 人のおそく沙汰せし事どもをも、即ちとく沙汰して、常に暇をあらせてなむありける。
【訳】(これまで)人が処置に手間どっていたことなどをも、すぐにさっさと処置して、いつも余裕をもっていられるようにしていた。
◆ さた
命令
② 院の御沙汰にて、内(だい)裏(り)にはしろしめされず。
【訳】上皇の御命令であって、内裏ではご存じない。
◆ せうそこ
挨拶
① いで、御消息聞こえむ。
【訳】さて、(源氏の君に)ご挨拶を申し上げよう。
第21回
◆ せうそこ
手紙
② おこたりたる由消息聞くも、いとうれし。
【訳】病がよくなっている次第を手紙で聞くのも、たいへんうれしい。
◆ ひな
田舎
① 天(あま)離(ざか)るひなの長(なが)道(ち)ゆ恋ひ来れば明石の門(と)より大和島見ゆ
【訳】田舎からの長い道のりを(都を)恋しく思いながら来ると、明石の海峡から大和の山々が見えてくる。
◆ よろこび
お礼
① 八日、人のよろこびして走らする車の音、ことに聞こえて、をかし。
【訳】八日、人がお礼を(申し上げるために参内するなど)して走らせる車の音が、(いつもよりは)違って聞こえて、おもしろい。
◆ よろこび
任官
② たのむ人のよろこびのほどを、心もとなく待ちなげかる。
【訳】あてにする夫の任官のときを、待ち遠しく切に願いながら待たずにいられない。
◆ うち・おほやけ
宮中
① 十年ばかり内にさぶらひて聞きしかど、さらに音もせざりき。
【訳】(鶯は宮中では鳴かないものだと聞いて、その後)十年ほど宮中にお仕えして聞いたが、まったく鳴く声もしなかった。
◆ うち・おほやけ
帝
② 御もののけなどいとかしがましういふ程に、(中略)内にも聞こしめしてければ、いかにいかにとある御使頻(しきり)なり。
【訳】御物の怪が現れたなどとたいそうさわぎたてているうちに、帝もお聞き及びになられたので、「どんな様子か、どんな様子か。」というお使いがしきりとある。
◆ ひぐらし・ひねもす
一日中
① 別れに臨みて、ひと日草扉をたたいて、ひねもす閑談をなす。
【訳】(許六は)別れに際して、ある日(私の)草庵を訪ねてきて、一日中閑談をした。
◆ れいならず
いつもと違っていて
① 古今をもてわたらせ給ひて、御几帳を引き隔てさせ給ひければ、女御、例ならずあやし、とおぼしけり。
【訳】(天皇は)古今集を持ってお越しになって、御几帳を立てて隔てなさったので、女御は、いつもと違っていておかしい、とお思いになった。
◆ れいならず
体の調子が悪い
② 御心地は、少し例ならずおぼされけり。
【訳】ご気分は、少し体の調子が悪いようにお思いになった。
◆ いで
さあ
① (大納言殿が)「下るるか。いで、送らむ。」とのたまふ。
【訳】(大納言殿が)「局に行くのか。さあ、送ろう。」とおっしゃる。
◆ いざ
さあ
① 僧たち、よひのつれづれに、「いざ、かいもちひせむ。」と言ひけり。
【訳】僧たちが、宵の手持ちぶさたに、「さあ、ぼた餅を作ろう。」と言った。
◆ さは(ば)れ・さもあらばあれ
どうにでもなれ
① 遅うさへあらむは、いと取りどころなければ、さはれとて(中略)書き取らす。
【訳】(返歌が下手なのに加えて)遅くまであったら、とても取り柄がないので、どうにでもなれと思って(歌を詠んで)書き取らせる。